当社のEMC試験について
ほぼ規格通りの試験が可能な試験所でのEMC試験に対し、製造現場での試験は規格通りできない場合も多いため、規格の意図を理解し、自ら試験方法を構築していく姿勢が不可欠です。
この連載では、国内有数のEMC試験の歴史を持つ当社が、認証機関やお客様より必要な同意を得つつ構築してきた製造現場での試験方法、および考え方を、全3回にわたってお伝えします。
第2回
製造現場でのEMC試験方法例
試験計画
試験室で行う試験と比較すると、特にエミッション試験ではアンテナ距離・高さ、環境ノイズへの対応、接地状況など多くの制約があります。そのため、どのようにEMCへの適合性を評価するか以下の3点を明確にしておきます。
- 対象の装置(範囲)と関連装置、および対象外の装置(範囲)
- 他の装置に電磁的影響を与えるリスク、又は他の装置から電磁的影響を受けるリスクを低減する手段
- リスク低減のために適用できる使用上の制約条件の範囲
また、認証機関でEMC適合確認証明書を取得する際は、殆どの場合、申請時に試験計画書を提出しなければいけません。
エミッション試験
エミッション試験とは不要輻射電磁波を測定するものですが、供給される電源や周囲の装置の稼働状況など、設置環境に大きな影響を受けます。ここではそのような環境下での試験方法を説明します。
伝導エミッション・放射エミッション
製造現場での放射エミッション試験(写真手前は測定器)
アンテナを用いて測定する放射エミッションにおいては、対象装置 (EUT)以外の装置の稼働を最小限に留め、アンテナとの間に遮蔽物がないようにするなどの事前準備をします。それからEUT稼働時と非稼働時のノイズを測定・比較し、 EUTから放出されるエミッション測定値を求めます。事前に環境ノイズの変動状況や特性(広帯域性か狭帯域性かなど)を把握しておくことはもちろん、可能な限り短い時間内に双方測定する、必要に応じて測定タイミングを変えるなど、経験とノウハウが必要です。
当社では環境ノイズが大きな製造現場で放射エミッションを測定するための手順書を準備し、この測定方法は複数の認証機関から同意を得ています。
イミュニティ試験
イミュニティ試験とは周囲の電磁波で誤動作しない耐ノイズ性を確認するものですが、電波法の規制や、EUTの周囲で稼働している他の装置に影響を与えないことなどの制約下で試験をしなくてはいけません。
ここでは、代表的な試験として、試験規格IEC 61000-4-2~IEC 61000-4-6について、製造現場での試験方法を説明します。
静電気試験(IEC 61000-4-2)
試験室で実施するような静電気電圧の印加、印加方法、接触、気中、間接放電など、基本的な手法は製造現場でも相違ありません。ただし“間接放電”の試験では、現場の条件(大多数の配線含む金属筐体。ノイズ源となる他装置の近接設置なし等)により省略されることが大半です。
放射イミュニティ試験(IEC 61000-4-3)
製造現場では規格に規定された電界レベルの条件を作ることは殆ど不可能です。加えて、電波法に抵触しないよう電磁波を遮蔽することが難しく、作業者が電磁波に曝されることによる健康面も配慮すると、現場で実施することは現実的ではなく、代替試験を行う必要があります。代表的な試験は、空中伝播ノイズが装置のケーブルを介して印加されることを想定した、ケーブルに対する80MHz以上の試験信号の印加です。
バースト(ファストトランジェント)試験(IEC 61000-4-4)
電源線と信号線にバースト波形の試験信号を印加します。製造現場の場合、電源線や信号線に結合減結合回路(CDN)を挿入することが難しいため、試験信号をケーブルに容量結合で印加できるカップリングクランプを介する方法が主流です。
サージ試験(IEC 61000-4-5)
EUTに最も負荷の大きい試験です。サージ電圧はバーストや伝導イミュニティ試験と比較して、印加電圧波形の周波数上限が比較的低いため、絶縁トランスやノイズフィルタなどのサージ吸収素子による低減効果を利用し、装置破損のリスクを回避する工夫を施し実施します。
伝導イミュニティ試験(IEC 61000-4-6)
150kHz-80MHzのサイン波をAM変調した試験信号を印加します。ただし、バースト試験と同様、現場で試験する装置の多くが、EUTのケーブルに規格で要求されたCDN自体を挿入することが難しいため、試験はカレントインジェクションプローブ(電流プローブ)やEMクランプで試験信号を印加することが多くなります。
EMC試験についての全3回に渡ったESTIレポートをご覧ください。
製造現場におけるEMC試験への、皆様の理解の一助になれば幸いです。
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